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「綾。なにふたりに、エサばらまいてんだよ」  向かいの席から、真央ちゃんがあたしをにらみつけてくる。 「エサじゃないもん。これにはいろいろわけがあるんだもん」 「にしても、どっちの作品も、クオリティーの低さが際だってるな~。幼稚園児の工作レベルだぞ。あれは、いらないな~」  グサ、グサ、グサっ!  真央ちゃんはズケズケ言っちゃうところが、気持ちいいんだけど。  こ、これ、ちょっとキツすぎ……。 「まったく。真央は、ちっともわかってないね。うまいとかヘタとかじゃないんだって。綾ちゃんがつくってくれたものなら、あの男どもは、なんだってうれしいんだって。ね~、綾ちゃん」 「え~ん。有香ちゃん~っ!! 」 「有香は、綾をあまやかしすぎ」  その間にも、教室の前と後ろで、せめぎあいはつづいてる。 「まぁな。チャチャっと絵づけくらいなら、数分で終わるしな。義理プレにはちょうどいいかもな」 「なんだよ~。そんなの、いっしょうけんめいに絵を描いてくれた和泉にしつれいじゃん~」 「オレの場合は、いっしょうけんめいに、布を切るところからだからな。やっぱ、手間がかかってんな~」 「しかし、心のせまいカレシだな~」  真央ちゃん、ため息。 「もうっ! こんなへたっくそなボロキレ、はずしちゃいなよっ!! 」  横からリンちゃんの手がのびてきて、ヨウちゃんの本を引ったくった。 「わっ!?  な、なにすんだよ、倉橋(くらはし)っ!? 」 「わたしが、もっといいブックカバー、つくってあげるっ!」  ヨウちゃんがカバーを守ったひょうしに、本だけはずれて、ゆかにゴトン。 「あ~っ!! 」  さけんだのは、あたし。  瞬間的に立ちあがっちゃったら、背中でイスがガタンとたおれた。  真央ちゃんと有香ちゃん。だけじゃなくて、リンちゃんも誠も、ヨウちゃんまで。クラスのみんながきょとんと、あたしを見てる。  だ……だって……。  本にはきっと、「妖精」ってついた、イタイタイトルが書かれてるんだよ?  あたし、それを隠すためにブックカバーをつくったんだもん。  どうしよう! ヨウちゃんが、みんなからドン引きされちゃうっ!
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