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「……ひどい……」  白いころのヒメやチチの姿を思い出していた。  くるくるダンスして踊る妖精たち。キラキラ舞う銀色のりんぷん。はじけた笑顔。 「ヨウちゃん、ひどいっ!!  フェアリー・ドクターは、妖精を守るお医者さんなんじゃないのっ!? 」 「けどオレは、とうさんみたいに強い意志があって、フェアリー・ドクターをやってるわけじゃないから。妖精なんて……おまえを失うことに比べたら、ちっぽけなもんなんだよ……」  ヨウちゃんは、奥歯をくいしばって、うつむいた。  胸が痛い。  ズキズキ痛い。  だってヨウちゃん……わかってる。  言っちゃいけないこと言ってるって、わかってる……。 「ごめん。……ほかの妖精たちを、見捨てるわけじゃない。まずは綾を治して。それから、先のことをあらためて考えたい。とにかく……綾が治ってくれなきゃ……オレには、なんも考えられない……」 「……で、でも……」  右手のひらに、硬いビンの感触がした。  ミストのポンプに入ったマロウの小ビンが、あたしの真っ黒い手のひらに乗せられている。 「考えといて」  ヨウちゃんは立ちあがると、ドアを開けて、廊下へ出て行った。
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