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アーチ型の入口から、白くて冷たい日がさし込んでいる。
日差しが、影にさえぎられた。
スノーマンのように丸い人影。
「葉児君に、綾ちゃんじゃないか」
目が慣れてきて、砲弾倉庫跡に入ってくる人の、水色の作業着が見えた。
丸いお腹に短い足。頭はつるつるで、耳の横にだけ灰色の髪がのこってる。細かいしわにかこまれた青い小さな瞳。
「鵤さんっ!」
あたしのとなりで、ヨウちゃんがさけんだ。
「こ、こ、これは、いったいどうなってんだ……っ!? 」
セーターのそでぐちに隠されているあたしの左手首。その手首から、ひじのあたりまで、池みたいに大きな黒いアザがある。
今、ここ、砲弾倉庫跡のレンガ造りのゆかに、点々と落ちている黒い物体とおんなじ黒。
その真っ黒い物体は、手のひらサイズで、背中にトンボの羽がはえていた。
ついこないだまでは、白い肌で、キラキラ、りんぷんを撒きちらしながら飛んでいた妖精たち。
その体が、今はまるで妖精の形をした、ただの炭。
目を見開き、手足をおりまげて。あたしたちの足元に横たわっている。
「アザは、過去の影響が遅れて、妖精の体に出ただけだって、言ったろっ!? それがなんで、妖精を真っ黒にするぐらい、広がってんだよっ!! 」
ヨウちゃんが、おおいかぶさるようにして、鵤さんに向かっていく。
あたしと同じ小六なのに、ヨウちゃんの身長はもう、おとなの男の人並みに高い。小柄な鵤さんが押され負けしちゃう。
「ヨウちゃん、落ちついてっ! 鵤さんのせいじゃないよっ!! 」
あたしは後ろからぎゅっと、ヨウちゃんの左腕をつかんだ。
ヨウちゃん、肩で息をついて、奥歯をかみしめてる。
……こんなヨウちゃん、はじめて見た……。
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