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「息吹先輩」
「なんだ」
「ライブ、楽しみにしてるからね」
ぽつり、と空から降り落ちる一滴の雨のように、ふいに発せられた彼女の何気ない言葉に俺は目を上げた。
「……俺もな」
「うん?」
「お前の舞台を楽しみにしている」
「うん!」
嬉しそうに笑う彼女が可愛らしくて背筋がこそばゆくて、次は一人舞台を俺独りのために上演してくれればいいだとか、この顔を誰にも晒すことがないように着ぐるみの芝居でもやってくれたらいいだとか、そんなくだらない妄想さえしてしまうあたりが末期症状で、本当に救いがたい。
これからも、お前はそうやって、天から恵の雫を与えたり、翼をひろげて天使みたいに飛んできて、気まぐれに上に掬いあげたりするんだろう。俺はその度に、飢えたり満たされたりを繰り返しては生に喘ぐ。それを思うと、絶望にも近いどろりとした幸福を感じてしまう。
恋煩いなんて、そんなロマンティックな響きでもないだろう。
求めて、与えられて、潤って、飢えて、また求めて――。
俺は今日も、飽くことなく砂漠の夢を見る。
了
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