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それから毎日、彼女に焦がれていた。
近くで会ってみたい。こちらを見て、あの綺麗な硝子玉のような瞳に俺を映してほしい。話をしてみたい。あのやわらかな声音で、俺の名を呼んでほしい。触れてみたい。あの黒く健やかな髪を、思うままに存分に撫でてみたい。
それはもう産まれてはじめて、誇張ではなく食事の味もわからなくなるほどに執着を覚えた。家族とか友人とか、どういう類の人間関係にも固執しない性質だったはずなのに。
とにかく彼女のことが気にかかって仕方なく、朝にも夕にも、のべつまくなし物思いに耽ることが日に日に多くなっていった。
そんな俺を見て、歳の離れた兄は「恋煩いだ」と言い放ったが、俺にとってはそのもの自体の名前は重要な問題ではなかった。
重大なのは、俺がかつてないほどの熱量を持って、身体の根底から確かに彼女の存在を求めていたということ。
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