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――それからの経緯は、まあ今となっては小っ恥ずかしい思い出に過ぎないので割愛するが、端的に言えば共通の知人を介することをきっかけに、ほどなくして俺は彼女と、晴れて恋人同士になることができた。
その時は文字通り天にも昇る心持ちだったし、心身の隅々に渡るまで満たされていた。切に想い続けた彼女は俺のなかですでに神聖な存在にまでなりつつあったから、互いに見つめ合ってそば近くにいられるのだと思うと神秘的な気持ちにすらなった。
まるで未知の大海に生まれ落ちた稚魚のようにまっさらに、俺はこの世界を生き直すような心持ちで、彼女との生活を順調に漕ぎ出していったのである。
彼女は神さまみたいだ、というのは言い得て妙だ。恋と信仰は、もしかしたら似ているのかもしれない。
俺は彼女のためなら苦行にも耐えられるし断食や自爆テロだってやってのけられる気がする。彼女の言葉をメモにとって聖書に纏めて時おり眺め返して、心の安らぎを得ることもできると思う。そうして必死に求めて励んで、彼女から与えられる恵みや癒しという名の施しを受けて、俺はゆくゆく解脱して憂いから解放されて生きていることを実感できるはず、だったのかもしれない。それをこそ、幸せと呼ぶのかもしれない。
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