仙人掌

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 そう例えるなら、俺は灼熱の砂漠に耐えうる旅人であったはずだった。それなのに彼女の一滴を与えられ潤いというものの存在を知った。求めれば求めただけ、恵みの雨をバケツがひっくり返ったようなどしゃ降りで与えられ、憩いの心地よさを知ってしまった。  潤沢を知ってしまって、それと同時に枯渇をも知ったような。  オアシスでの暮らしに慣れすぎて外側の炎暑の世界での耐性を失ってしまったような。  ――だから、こうして抱き締めると目眩がするんだ。  目が眩む。尽きることのない底なし沼のような欲求に焦らされてじりじりと渇いていく。  ああもう、いっそ全部食いつくしてしまいたい、と俺は目の前にあった白い首筋に噛みついた。痛いよ、と小さく抗議の声が聞こえて、細い身体がぴくりと震える。口を離すと、歯列の形の傷跡にうっすらと血が滲む。それを見ると無性にたまらない気持ちになって、赤い筋にぺろりと舌を()わせた。今度はこの小さな傷口から、彼女の体内に入り込んで溶け入ってしまいたい、と思う。  あああ、目が眩む。責め立てるような極暑の日差しに身体も思考もすべて、蝋燭のようにどるどると溶けていってしまう。彼女を得ることで、はたして俺のすべては狂ってしまったのだろうか。
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