招き

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 深夜、山中と言っても良いその人気のない場所では、パトカーやら救急車やらの赤色灯が場違いに目に煩かった。運悪く死体を見つけてしまった通報者を運転席に戻した中年の警察官は傍らの慰霊碑を眺めた。御影石の黒が、闇と同化していてあまりはっきりとは見えなかった。 「数時間前、日付が変わったくらいには亡くなっているんじゃないかって。」  駆け寄った若い警察官が、中年の警察官に話しかける。視線を動かし、今度は鑑識が写真を撮る様子を眺めながら、中年の方は「またか」と呟いた。 「自殺かもなあ。」 「え、自分から轢かれに行ったってことですか?」 「いや、此所は夜は滅多に車なんか通らないし、道路を急いで横断する理由になりそうなものもない。自分から飛び出さない限り、おかしいだろ?」 「まあ。」 「それにな。此所でのその時間帯での事故は、過去にも幾つかあるんだ。運転手はみんな決まって人が飛び出してきたって言っていたし、状況から見てもそうだろうとしか判断できないものばかりだった。」  そう言われて、若い方は首を傾げた。 「こんな所で、いつ来るか分からない車を待つって、ちょっと変じゃないですか?」 「まあなあ。ただ、こんな噂話があってな。」 「噂ですか?」  胡散臭そうな表情を隠しもしない後輩の警察官に、中年の警察官は苦笑する。 「何でも、此所で自殺すれば、昔この場所で事故死したツアー団体が迎えに来て、穏やかな気持ちであの夜に逝けるんだと。」 「何ですかそれ。変な話だな。誰だろう、そんなこと言い出したの。」 「さあてね。事故現場にはよくある話だ。それより被害者の身元は?」  先輩警察官に言われて若い警察官は慌てて報告する。 「ズボンのポケットに入っていた財布から免許証や学生証が。隣の県の大学生ですね。名前は楠田――」 終
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