招き

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 普通、肝試しは夜だと相場が決まっていなかっただろうか。大学で一つか二つ同じ講義を履修しているだけの同期生に連れられて、何故自分は真っ昼間からこんな所にいるのだろう。楠田は溜息を一つ零した。 「本当に聞こえるのかよ。」 「マジで先輩が聞いたんだって。あるはずのない踏切の警報音と、ツアーガイドの呼ぶ声。」  楠田達は隣の県にまで、わざわざレンタカーを借りて男三人でやって来ていた。全ては都市伝説の検証だ。三人の内の一人、沢木のバイト先の先輩が、ドライブ帰りの休憩に停まったこの場所で、踏切のカンカンカンという音と「ツアー参加者の皆様は早く集合してください」という声を聞いたらしい。線路の側とは言え踏切はないし、自分以外に車どころか人もいない場所で何故そんな声や音が聞こえたのか不思議に思い、彼は帰宅後に調べてみたのだという。すると、その場所は電車同士が正面衝突事故を起こした現場だったと分かった。乗車していたツアー客と添乗員、車掌に運転手と大勢が亡くなる大惨事だったらしい。しかも音が聞こえた時間は丁度、事故の起きた時間だった。 「けれど、先輩は不思議と怖くはなかったそうだ。で、どうやら都市伝説としてネットでは有名な現象だったと知ったんだと。」 「その、何も知らない人がたまたま聞いたってのがスゲーよな。」 「おい、その先輩は本当に都市伝説とか事故のこと知らなかったのかよ。」  楠田がそう言うと沢木はむっとした顔をした。 「何だよお前、先輩を疑うのかよ。」 「俺はその先輩を見たことすらねえんだ。当たり前だろ。」 「何だと!」 「おい、時間だ。」  沢木の友人である田中が二人の言い合いを制した。みんなで黙り込む。さああっと風が吹く音が聞こえるだけだった。楠田が、何だやっぱりガセじゃないかと口を開こうとした瞬間。  カンカンカン……カンカンカン……  楠田は思わず傍らの高架になっている線路を仰ぎ見る。踏切はない。けれど確かに音が聞こえている。他の二人も聞こえているのだろう、同じように線路を真っ青な顔で見つめている。 「おおい、乗り遅れますよ。」  不意に声がして、楠田は少し離れた所に設置してあった電車のオブジェの方を見た。其処にはいつの間にか大勢の人が集まっている。みんな楽しそうな様子だ。その中の一人、人の良さそうな小太りの中年男性が此方に向かって手を振っていた。
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