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ある冬の寒い日、友達が山で事故に逢い、病院に運ばれたと連絡があった。
事故にあったのは、雅哉と健一という友達2人で、雅哉は骨折程度で済んだけれど、健一は両手を切断する事態になったと聞いていた。
まだ若いのに、両手切断なんて、なんて声をかけていいのか分からず、俺は先に雅哉の見舞いに行く事にした。
病室に入ると、雅哉は沈んだ表情でベッドに座っていた。
「雅哉、大変だったな」
「大輔……。ああ、本当に大変だったよ。生きてるのが不思議なくらいだ」
雅哉の車は廃車になったそうだ。
さぞかしひどい事故だったのだろう。
しかし、疑問だ。雅哉は友達の間では、1番運転が巧く、安全運転を心がけていたのに。
その疑問をぶつけると、雅哉は青ざめた顔でこう言った。
「きんかんばばあに遭ったんだ」
「きんかんばばあって……あの、都市伝説の?」
きんかんばばあ。それは、地元、熊本につたわる都市伝説で、別名、走る婆さんともいう。
たぶん、どこの都道府県でも似たような都市伝説はあるのではないだろうか。
きんかんばばあの名前の由来は、きんかんを大量に持っているとか、顔がきんかんのように小さいとか、さまざまな説がある。
もちろん、きんかんじじいもいる。
俺たち熊本人が中学くらいになると、どこからともなく伝わる都市伝説だ。
たぶん、中学で行われる金峰山の少年自然の家に行く際に、先輩から語り継がれるのだと思う。
金峰山は、かんかんばばあの棲みかだ。
その都市伝説のきんかんばばあに遭った。雅哉は今、そう言ったのか?
「おいおい、何の冗談だよ。いくら事故ってショックだったからって、そんな――」
「冗談なんかじゃない。まぁ、普通の婆さんが、走行中の車と並んで走れるっていうなら話は別だがな」
「マジかよ……。だって、きんかんばばあなんて、ただの噂だろ……」
「俺だって自分の目で見るまでは、ただの都市伝説だって思ってたさ」
雅哉の目は本気だった。
きんかんばばあが、本当にいたなんて……。
そういえば、でかい道路である東バイパスでも目撃されたって話を聞いたような気がする。
雅哉と健一は、都市伝説に巻き込まれてしまったのか。
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