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「四時間目 理科室で実験」。
体育から帰ってくると、教室の黒板に大きく書いてあった。
マジかよ……。
黒板を見あげ、首後ろに手を置いて、ため息をつく。
おととい、ひどい目にあったばかりで、また?
できればもう一生、あの班で実験なんてやりたくない。
教室にはもうだれもいなかった。クラスメイトはみんなすでに、理科室に移動してしまったあとらしい。
オレは体育委員だ。体育のあとはよく、体育教師の恩田につかまって、体育用具のかたづけをやらされる。
今も、三時間目につかったハードルを倉庫にしまってきたところだ。
「あち~。これから着がえて、理科室まで行くとか、間に合うのかよ?」
ぶつぶつ言いながら、黒板消しでチョークの字を消していると、ガラッと前のドアが開いた。
「……あれ? みんなは?」
和泉がアホ毛をゆらして、教室に入ってくる。
ぽかんとした顔で、手にハンカチをにぎりしめているところを見ると、トイレに行っていたのかもしれない。
こいつ、また出遅れたのか……。
「とっくに移動したよ」
カタンと黒板消しを置いて、パンパンと手をはらってから、相手の返事がないのに気づいた。
和泉は窓際の自分の席で、理科の教科書を出している。
……なんだ、この距離感……?
うつむいたまま、ぜんぜんこっちを見ない。
ザワザワと、めんどくささがこみあげてきた。
これからオレ、こんなヤツといっしょにまた、あの実験かよ?
だいたいなんで、オレが嫌われなきゃならないんだっ!!
ほかの女子たちはみんな、オレにすり寄ってくるのにっ!
「――っと。次の時間、理科じゃなくなったぞ。音楽だって。みんなは音楽室に移動した」
「……え?」
和泉の目が、パッとオレを見た。
黒目がちの大きなたれ目。少しうるんでいる。
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