すべてがはじまるその前に

10/16
前へ
/16ページ
次へ
     ● 「四時間目 理科室で実験」。  体育から帰ってくると、教室の黒板に大きく書いてあった。  マジかよ……。  黒板を見あげ、首後ろに手を置いて、ため息をつく。  おととい、ひどい目にあったばかりで、また?  できればもう一生、あの班で実験なんてやりたくない。  教室にはもうだれもいなかった。クラスメイトはみんなすでに、理科室に移動してしまったあとらしい。  オレは体育委員だ。体育のあとはよく、体育教師の恩田につかまって、体育用具のかたづけをやらされる。  今も、三時間目につかったハードルを倉庫にしまってきたところだ。 「あち~。これから着がえて、理科室まで行くとか、間に合うのかよ?」  ぶつぶつ言いながら、黒板消しでチョークの字を消していると、ガラッと前のドアが開いた。 「……あれ? みんなは?」  和泉がアホ毛をゆらして、教室に入ってくる。  ぽかんとした顔で、手にハンカチをにぎりしめているところを見ると、トイレに行っていたのかもしれない。  こいつ、また出遅れたのか……。 「とっくに移動したよ」  カタンと黒板消しを置いて、パンパンと手をはらってから、相手の返事がないのに気づいた。  和泉は窓際の自分の席で、理科の教科書を出している。  ……なんだ、この距離感……?  うつむいたまま、ぜんぜんこっちを見ない。  ザワザワと、めんどくささがこみあげてきた。  これからオレ、こんなヤツといっしょにまた、あの実験かよ?  だいたいなんで、オレが嫌われなきゃならないんだっ!!  ほかの女子たちはみんな、オレにすり寄ってくるのにっ! 「――っと。次の時間、理科じゃなくなったぞ。音楽だって。みんなは音楽室に移動した」 「……え?」  和泉の目が、パッとオレを見た。  黒目がちの大きなたれ目。少しうるんでいる。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加