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「ホントっ!? あたし、理科室行っちゃうとこだった。中条、教えてくれて、ありがとうっ!」
和泉は、つくえの引き出しに理科の教科書をしまって、かわりに音楽の教科書をとりだした。
教科書とペンケースを胸に抱えて、廊下へとびだしていった。
……ヤバイ。
自分のしでかしたことに気づいたのは、体育着からTシャツとジーンズに着がえて、理科室に移動したあとだった。
頭の中がすーっと冷めていって、目を覚ました感じに似ている。
オレ、なに言ってんだっ!?
ふつう、あんなことを言われたら、だれだって信じて、音楽室に行くだろ?
「せんせ~い、和泉さんがいませ~ん」
青森が、実験用のつくえの向かいで手をあげている。
「なんで? 体育まではいたよね?」
「どうしよう。わたしたちが綾ちゃんを置いて、先に理科室来ちゃったから」
永井はおどおどして、河瀬に「イヤイヤ、『うちら、先行くよ』って伝えといたし。あかんぼじゃないんだから。ふつうは、ひとりで来れるだろ」と、なぐさめられている。
たしかに。和泉はあかんぼじゃない。
けど、「理科室じゃなくて、音楽室に移動」って、だました人間がいたとしたら、あかんぼじゃなくても、理科室には来られない。
「オレ、さがしてきますっ!」
ガタンとイスを引いて、立ちあがった。
「え? 中条君?」
「葉児?」
クラスメイトたちの視線が、いっせいにオレにあつまってくる。
「イヤ、オレ、いちおう三班の班長なんで」
言い訳がましく言うと、担任の大河原は、「わかった」とうなずいた。
「中条はちょっと、和泉をさがしてきてくれ。すまないな。ほかは、席について。きょうの実験の説明をする」
オレは廊下へかけだした。
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