すべてがはじまるその前に

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 校舎の三階。西のどんづまり。 「第一音楽室」とさがったプレートが近づいてくる。  ドアは閉まっていて、中から音はきこえてこない。  ガラッとドアを開けると、窓からの暑いひざしが、音楽室のつくえを照らしていた。  五線譜の引かれた黒板。横にグランドピアノ。教室の後ろには、シンバルや大太鼓が置かれている。  つくえのならぶ中央に、ひとりの女子が座っていた。  肩につくくらいまでのストレートヘアのてっぺんから、アホ毛がくるんととびだしている。 「……和泉」  肩で息をつきながら名前を呼ぶオレを、相手はぽかんとながめている。 「おまえ、いつまで、ひとりで待ってる気だ? だれも来ないなら、ちがうって、フツウ気づくだろ?」 「――え?」  やっと、和泉が立ちあがる。 「ちがうの? でも……中条が音楽室だって……」 「……また、変更になった。やっぱ、理科室だった」 「……え? そうなの……?」  そうじゃない。  ウソだ。はじめから、「理科室」だった。  オレは「いっしょに実験するのがめんどくさいから」っていうチョー自己中な理由で、和泉をだましたんだ。 「…………ごめ」  のどから出てこない声をむりやりはきだそうとしていると、和泉が目の前に歩いてきた。  身長差、すごい。和泉の頭はオレの鎖骨あたりまでしかない。
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