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ふっと和泉が顔をあげた。
黒目がちのたれ目が、正面切って、オレを見つめる。
「わざわざ、知らせに来てくれて、ありがと……中条」
……え?
ごくんとつばを飲み込んだ。
……笑ってる……。
和泉の小さな口元が、きゅっと上に持ちあがっている。
ふっくらとつややかな、桜色のくちびる。
さわったら溶けそうなほど、やわらかそうなほお。
長いまつ毛にかこまれた瞳は、ふるふるとうるんでいる。
ズクン。
心臓が、きいたこともない音をたてた。
オレは、パッと、自分の口をマスクのように手のひらでおおった。
……なんだ、これ……?
だって、和泉って、オレのことが嫌いなんじゃなかったのか?
それなのに、嫌いな相手に、笑いかけるのかよ?
そんな……うるうるの目でっ!
カーッと、ほおに熱があがってくる。
反則だろっ!?
こんなん、ぜって―反則だってっ!
バクバクと鳴りやまない心臓の音をききながら、オレはおおまたで廊下を歩いて、また和泉を置いていった。
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