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――和泉の目って、おっきくてすっごいうるうるだよね。正面切って見つめられたら、オレ、クラっと来ちゃうもん――
誠の声が、頭にこだましていた。
「ごめん」とも言えなかった。
自分の心臓の音の意味さえ、さっぱりわかっていなかった。
サイアクなオレ。
サイアクな過去。
★ ★ ★ ★ ★
「ヨウちゃんっ!」
綾が、高台をかけてくる。
うすピンク色のコートのすそをひるがえし。白いマフラーを風になびかせて。
運動オンチのくせに、つかれるんだからよせばいいのに。オレの家の前の急な坂を、わざわざ走ってのぼってくる。
てっぺんまでたどりつくと、口から、ハアハア白い息をもらしながら、ふら~とオレの胸に倒れこんできた。
「うわっ!? お、おい、綾っ!?」
反射的に、綾のコートの両肩をがしっと受けとめる。
「よ、ヨウちゃん。あのね……」
アホ毛をゆらして、綾が顔をあげた。
冬の冷気にあたって、ほおが、桃色に染まっている。
にこっと笑う、うすピンクのくちびる。
黒目がちのたれ目は、うるうるのキラキラ。
「あのね、大晦日、おめでとうっ!」
「――は? なんだよそれ?」
「いいの、おめでとうなのっ! それでね、あしたは、『あけましておめでとう』って言うのっ! 真っ先にヨウちゃんのところに、とんでくるからっ!」
きゅうっと、胸をにぎりつぶされた。
ヤバイ。めちゃめちゃ抱きしめたいっ!
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