すべてがはじまるその前に

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中条(なかじょう)くぅ~ん。いっしょに屋上いこ~」  ふり返ると、倉橋が女子たちを引きつれて、オレの席の後ろに立っていた。 「ね、ね。そんなむさくるしい男子たちとしゃべってないで。うちらと話そうよ~」  オレの腕を取って、強引にイスから立ちあがらせる。 「なんだと~。女子ども~」 「くっそ~。葉児のヤツ、倉橋を取りやがって~」  女子たちにつれられて、廊下に出るとき、大岩の声がきこえてきた。 「ってか。葉児なら、その気になれば、だれだって落とせるんじゃね?」  ……まぁ、そうかもしれない。  琥珀色の髪。琥珀色の目。  イギリス人だったっていうとうさんは、オレが四歳のときに亡くなったから、思い出もなにものこってないけど。  この顔にしてくれたことには、かなり感謝している。  廊下に出ると、真夏とかわらないくらいキツイ日差しが、窓からほおを照らした。  九月に入ったけど、最近の暑さからしたら、まだ「夏」と言ってもいいほどだ。 「ねぇねぇ。さっき、中条君、男子たちと、どの女子がカワイイか話してたでしょ~?」  廊下を歩きながら、倉橋がするっと、オレの腕に、自分の腕をからませた。  大岩が「カワイイ」と言うのもうなずける。パッチリの猫目。ふわふわと長いツインテール。太ももでゆれるミニスカート。 「中条君は、うちのクラスで、だれが一番カワイイと思う?」  倉橋の顔には「わたしでしょ」と書いてある。 「……さぁな」  オレは無表情のまま、窓の日に目を細めた。  女子はたしかにカワイイとは思うけど、だれが一番とか考えたことがない。  考えなくても、女子たちは勝手に、オレのところに寄ってくるから。
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