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担任の大河原が黒板に説明を書いて、実験がはじまると、理由はすぐにわかった。
「和泉さん、塩酸あぶないっ!」
青森が悲鳴をあげる。
ハッと横を見ると、塩酸の入った試験管立ての上に、和泉が腕をのばしていた。向かいの青森のほうまで転がった消しゴムを拾おうと、手を出したらしい。
塩酸って、劇物だろっ!? 取り扱いにはじゅうぶん気をつけろって、たった今、大河原がっ!
「うわっ!!」
ぐらりとゆれた試験管立てをとっさに支えると、間一髪で、和泉の腕が試験管を倒すのをまぬがれた。
「……ごめんね」
和泉、ぽつり。
おいおい。あやまりかた、なんか軽くねぇ?
「それじゃ、アルコールランプに火をつけて」
今度は、和泉の手に、マッチ箱とマッチがわたされる。
和泉はそっと、マッチを擦った。だけど、力が弱くて、火がつかない。
「おい、もっと強く擦れよ」
弱い力のまま、あんまりくり返すのでイライラしてきたら、和泉の肩が、ビクッととびはねた。
……は?
オレ今、そんなおどろかせるようなこと、言ったか?
和泉は、ぎゅっと目をつぶった。
で、目をつぶったまま、マッチをマッチ箱に、思い切り擦りつける。
「ば、バカっ! あぶないっ!!」
マッチ棒はポッキリ折れて、その先で火がぼうっ!
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