32人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわっ!?」
オレの向かいの席で、杉田の声も裏返る。
「つ、つくえに火、燃えうつるっ!!」
「消せ、早くっ!!」
目の前にあったビーカーの水を、折れたマッチの先にぶっかける。
火は消えたけど、うちの班のつくえは水びたし……。
「なにやってんだ、三班~っ!!」
担任の大河原が太い眉をしかめて、とんでくる。
なるほど。
ようするに、和泉は、理科の実験がものすごく苦手なんだ……。
で、ガチガチに緊張していたと。
結果、事態は悪化して、ぜんぶ裏目。
考えてみれば、アホっ子に、実験みたいな細かい作業ができるわけない。
「じゃあ、アルコールランプの火を消して」
授業の最後に大河原が言うと、和泉はアルコールランプのふたに手をのばした。
ふたをアルコールランプの火の上にかぶせれば、火は消えるしくみだけど。
和泉がやったら、ランプはカタンと倒れかける。
「うわぁああっ!! おまえは、やるなっ! 貸せっ!」
ランプのふたを奪い取ったら、和泉は肩をビクッとさせて、うつむいた。
見ると、くちびるをかみしめている。目のふちに涙がたまっているし。
……なんでだよ?
五時間目が終わると、和泉ははじかれたように立ちあがった。
胸に教科書を抱えて、逃げるように永井と河瀬のところへかけていく。
「綾ちゃん、どうしたの?」
永井が黒縁メガネの中の目で、じろっとオレをにらんだ。
そうして、ふたりは和泉の左右を守るようにして歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!