すべてがはじまるその前に

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「うわっ!?」  オレの向かいの席で、杉田の声も裏返る。 「つ、つくえに火、燃えうつるっ!!」 「消せ、早くっ!!」  目の前にあったビーカーの水を、折れたマッチの先にぶっかける。  火は消えたけど、うちの班のつくえは水びたし……。 「なにやってんだ、三班~っ!!」  担任の大河原が太い眉をしかめて、とんでくる。  なるほど。  ようするに、和泉は、理科の実験がものすごく苦手なんだ……。  で、ガチガチに緊張していたと。  結果、事態は悪化して、ぜんぶ裏目。  考えてみれば、アホっ子に、実験みたいな細かい作業ができるわけない。 「じゃあ、アルコールランプの火を消して」  授業の最後に大河原が言うと、和泉はアルコールランプのふたに手をのばした。  ふたをアルコールランプの火の上にかぶせれば、火は消えるしくみだけど。  和泉がやったら、ランプはカタンと倒れかける。 「うわぁああっ!! おまえは、やるなっ! 貸せっ!」  ランプのふたを奪い取ったら、和泉は肩をビクッとさせて、うつむいた。  見ると、くちびるをかみしめている。目のふちに涙がたまっているし。  ……なんでだよ?  五時間目が終わると、和泉ははじかれたように立ちあがった。  胸に教科書を抱えて、逃げるように永井と河瀬のところへかけていく。 「(あや)ちゃん、どうしたの?」  永井が黒縁メガネの中の目で、じろっとオレをにらんだ。  そうして、ふたりは和泉の左右を守るようにして歩き出した。
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