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花火だ。白い煙が細く棚引いて消えていく。
側にいた一人が、異常を知らせに走っていく。その足音を掻き消すように、低く重い音が近づいてくる。
聞き慣れたヒナゼには、何の音かわかった。
まさか。
上げた顔を照らす太陽が、陰る。
砂山の向こうから現れたのは、飛行機だ。轟音を上げ、一瞬で目の前に迫る。それでも動けずにいたヒナゼをぎりぎりでかわし、テントを巻きこんで停止する。
ネスマラに墜落した筈の機体だ。そこから人が飛び降りて、ヒナゼに駆け寄ってくる。
絶対に間違えないその人が、生きて、走ってくる。
「ヒナゼ様!」
危機感に満ちた声に、ヒナゼは我に返った。飛行機に薙ぎ倒されたクタイの臣下が、ヒナゼに向かってくる。
もう捕らわれるわけにはいかない。
ヒナゼは刃を返し、敵へと振り向けた。ヒナゼの刃に飛び退いた臣下を、ミンリが倒してヒナゼの背後につく。
「無事だったのか」
安堵に肩を落とすヒナゼに、厳しい声が飛ぶ。
「まだ油断なさってはいけません」
ヒナゼは気を引き締め、長剣を抜いた。向かってくる刃を跳ね返す。
ヒナゼを殺しはしないだろうが、相手は腕が良い。ミンリの言うとおりだった。
それでもミンリの温みを背に感じて、じんわりと涙が滲む。そのヒナゼの耳に、怒号が響く。
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