133人が本棚に入れています
本棚に追加
「何をお考えです?」
執務室に戻った途端、ミンリの叱責が飛ぶ。
「サリアナを採用するのは当然だと思うが。見識もあり、腕も確かなようだ」
しれっとした顔でヒナゼが応える。ミンリのこめかみが引きつった。
「女性を側に近づければ、関係を疑われます」
「放っておけ。噂話の娯楽を与えるのも、王族の嗜みだ」
お前がそれに青筋を立てるのを見るのも、楽しみだ。
口には出さずに、ヒナゼはミンリに視線を流した。
「お前が心配するのもわかる。ムタフ家推薦の女性に手をつけたとなれば、政争の種になりかねない。私としても、それは避けたい」
「でしたら」
「かといって、彼女の実力を見ずにさがらせるのは、不当だろう。機会を求める者に与えないのでは、国家の発展にはつながらない。彼女が服飾デザイナーとしてここで成功すれば、多くの女性の道もおのずと開かれる」
ミンリははっと顔を上げ、目を伏せた。
「考えが至らず、申し訳ありません」
「よい」
ヒナゼは心中、ほくそ笑んだ。サリアナに興味を示す自分に注がれる、ミンリの不安そうな視線が心地良い。
面白いことになるかもしれない。
にっこりと笑んだヒナゼは、溜め息を隠したミンリを見上げた。
「では、サリアナの実力を他の者に証明する手立てを考えましょう」
思案顔をしたミンリに、ヒナゼは頷く。
「彼女なら、乗り越えるだろう」
今までもそうしてきた筈だ。でなければ、ヒナゼの前に現れることはない。
「けれど、異国の花嫁衣裳を作るのは、おやめください」
ミンリが目を険しくさせ、向き直る。
「それも嫌だな」
ヒナゼはにやりと笑った。悪戯を見つかった子供のように瞳を煌めかせる。
最初のコメントを投稿しよう!