波乱の予感

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「何をお考えです?」  執務室に戻った途端、ミンリの叱責が飛ぶ。 「サリアナを採用するのは当然だと思うが。見識もあり、腕も確かなようだ」  しれっとした顔でヒナゼが応える。ミンリのこめかみが引きつった。 「女性を側に近づければ、関係を疑われます」 「放っておけ。噂話の娯楽を与えるのも、王族の嗜みだ」  お前がそれに青筋を立てるのを見るのも、楽しみだ。  口には出さずに、ヒナゼはミンリに視線を流した。 「お前が心配するのもわかる。ムタフ家推薦の女性に手をつけたとなれば、政争の種になりかねない。私としても、それは避けたい」 「でしたら」 「かといって、彼女の実力を見ずにさがらせるのは、不当だろう。機会を求める者に与えないのでは、国家の発展にはつながらない。彼女が服飾デザイナーとしてここで成功すれば、多くの女性の道もおのずと開かれる」  ミンリははっと顔を上げ、目を伏せた。 「考えが至らず、申し訳ありません」 「よい」  ヒナゼは心中、ほくそ笑んだ。サリアナに興味を示す自分に注がれる、ミンリの不安そうな視線が心地良い。  面白いことになるかもしれない。  にっこりと笑んだヒナゼは、溜め息を隠したミンリを見上げた。 「では、サリアナの実力を他の者に証明する手立てを考えましょう」  思案顔をしたミンリに、ヒナゼは頷く。 「彼女なら、乗り越えるだろう」  今までもそうしてきた筈だ。でなければ、ヒナゼの前に現れることはない。 「けれど、異国の花嫁衣裳を作るのは、おやめください」  ミンリが目を険しくさせ、向き直る。 「それも嫌だな」  ヒナゼはにやりと笑った。悪戯を見つかった子供のように瞳を煌めかせる。
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