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一挙手一踏足も見逃すまいとするヒナゼの視線を受けて、ミンリはあくまで冷静だ。
「特には」
ひょい、と片眉を上げただけだ。
それが口惜しく、ヒナゼは念押しにわざわざ解説してみる。
「あれはお前を誘っていたのだ。お前を好きだと言う人間が裸でお前のベッドで寝ていれば、さすがのお前だってわかるだろう」
恨みがましい目を向けて膨れてみせれば、その頬を突かれる。ミンリがふっと、笑みを零した。
「子供が服を脱ぎ散らかして眠っていても、遊び疲れて寝間着も着られなかったのだと思うだけですよ」
ヒナゼの頬は増々、膨れた。
不覚だった。
春の夜の寒さに、布団に潜りこんでそのまま、寝入ってしまったのだ。
肩を揺すられて目覚め、眠気にぼうっとしながらミンリに差し出された寝間着を着こんだ。そして抱え上げられ、自室のベッドに入れられると、後はぐっすりだ。
ほんとうに、子供のようにあやされて、ミンリの顔を見ただけで安堵して寝てしまったのだ。
ベッドに誘う、というのは難術だとヒナゼは肩を落とした。
あの手この手の口説き文句や誘い方を試みてはいるが、結果は芳しくない。
かわされ、あやされ、無視される。
どうしてもミンリは、一線を越えてきてはくれない。
自分に魅力がないのかと落ち込まないではないが、ならば魅力的になるだけだと思い直す。
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