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「ところでヒナゼ様、先日捕らえた者の件ですが…脱獄いたしました」
人の悪い笑みを浮かべて、ミンリが小さな声で告げる。ヒナゼもにやりと笑った。
「やはり他にも内偵者がいたか。追わせているな?」
「はい。隊を組ませて、追っております。今朝の報告では、南に向かったと」
互いに目を見交わす。
内偵者はミンリが秘密の地下室で捕らえた。何を知ったかは吐かせたが、全てを吐き出したかはわからない。
それでも生かしておいたのは、手引きをする者が他にいなければいる筈のない場所に、内偵者がいたからだ。
これは裏に相当な糸が絡んでいる。その糸を持つ手に到着する直前に内偵者全員が揃うだろう。そう考え、あえて見張りを手薄にしておいたのだ。
「南…フィラ皇国か。辿りつく前に全員を捕らえよ」
ミンリが真摯な眼差しで黙礼する。口端に笑みを浮かべた様子から、手配は万全だと知れた。
おそらく国境沿いではミンリの配下が待ち受けているのだろう。いずれも手練れだ。情報漏洩は未然に防げると見ていい。
ヒナゼは鼻を鳴らして起き上がり、机の書類に手を伸ばす。今日の面会人予定リストだ。
「午後は、新任の服飾デザイナーか」
「もう控えの間に参じております」
「早く言え。待たせては悪い」
ヒナゼは身軽く立ち上がった。その横につき従うミンリの表情が、困惑で揺れている。
「どうした?」
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