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王族の目を真っ直ぐに見てくる者など、そうそういない。不敬となるのを恐れ、己の疚しさを隠したいからだ。
「サリアナ、だったな。忌憚のない意見を聞きたい。この服をどう思う?」
ヒナゼは立ち上がり、くるりと回って見せた。以前のデザイナーが仕立てた服だ。青い立て襟のシャツに銀糸を織り込んだローブを羽織っている。
「古臭いですわ」
無礼とも取れる発言だ。きっぱりと告げたサリアナに、ミンリの眉がぴくりと動く。
「ほう。どこが?」
ミンリを目で黙らせて、ヒナゼは冷静な声で問う。
「シャツの袖をそんなに膨らませては、十年前のデザインと一緒です。ヒナゼ様の体型ですと、そのローブの裾は長すぎます」
率直な意見はヒナゼと同じだ。ムタフ家の推薦があるから、前任者を悪く言っているわけではないだろう。センスが良く、的確な指摘ができるのだ。怖じずに答えるのも好ましい。
「王子の衣服をなんと心得る?」
ヒナゼは椅子に腰かけ、肘をついた。じっとサリアナを見つめる。
王子の衣服は伊達や酔狂で身につけるものではない。飾り立てればいいという意見が出たら、論外だ。
「王家の意を示すものと、心得ます」
視線を外さず、サリアナは微笑んだ。ヒナゼは目で先を促した。
「服が示すのは美だけではありません。その方の意識です。何を好み、重んじているのか。どんな未来を思っていらっしゃるのか。民は言葉にされなくとも、御身を拝謁するだけで察します。その役目を王家の方々の衣服は担っているのだと私は考えております」
「例えば?」
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