133人が本棚に入れています
本棚に追加
「宝石をたくさんお使いになる方には、国家の財政を民は憂います。自分の生活と引き比べもいたします。かと言って、全く身につけない方には、国家の緊縮策を想像します。国の威信という点を、民は不安に思うでしょう。バランスが問題ですわ」
いい答えだ。ヒナゼの考えとも合っている。
ヒナゼが衣服に関心を持つのは、民へ示す物だからだ。民が憧れを持ち、誇れる王族でありたいと思う。一方で奢侈に過ぎるのも困る。民の生活を圧迫し、ヒナゼの意に沿わないからだ。民意を叶えるのでなければ、王族など存在する意味がない。
ミンリを振り返ると、彼も関心を持ったようだった。ヒナゼに目礼し、口を開いた。
「何故、服飾デザイナーに? 女性は前例がありません」
鼻で笑いたそうな素振りをちらりと見せて、サリアナが顎を上げた。
「私、家事が大嫌いですの」
言葉を切ったサリアナに、ミンリとヒナゼは目を見交わす。
「家庭に入るのは無理ですわ。ですから、自分の口を養うために仕事に就くことを考えたのです。前例がないなら自分が作ればよろしいのです」
身上書によると、サリアナは男爵の娘だ。爵位はあるが、領地はない。典型的な貧乏貴族の出だった。結婚したとしても、高い身分の相手は望めないだろう。家事をせずに済ますには、自分が稼ぐしかないというのは、道理だった。
「男性の礼服の経験がないのでは?」
ミンリの言葉に、サリアナは眦を微かにつり上げた。
「ムタフ家の公爵様の礼服を仕立てておりました。本日見本をお持ちしました」
最初のコメントを投稿しよう!