波乱の予感

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「宝石をたくさんお使いになる方には、国家の財政を民は憂います。自分の生活と引き比べもいたします。かと言って、全く身につけない方には、国家の緊縮策を想像します。国の威信という点を、民は不安に思うでしょう。バランスが問題ですわ」  いい答えだ。ヒナゼの考えとも合っている。  ヒナゼが衣服に関心を持つのは、民へ示す物だからだ。民が憧れを持ち、誇れる王族でありたいと思う。一方で奢侈に過ぎるのも困る。民の生活を圧迫し、ヒナゼの意に沿わないからだ。民意を叶えるのでなければ、王族など存在する意味がない。  ミンリを振り返ると、彼も関心を持ったようだった。ヒナゼに目礼し、口を開いた。 「何故、服飾デザイナーに? 女性は前例がありません」  鼻で笑いたそうな素振りをちらりと見せて、サリアナが顎を上げた。 「私、家事が大嫌いですの」  言葉を切ったサリアナに、ミンリとヒナゼは目を見交わす。 「家庭に入るのは無理ですわ。ですから、自分の口を養うために仕事に就くことを考えたのです。前例がないなら自分が作ればよろしいのです」  身上書によると、サリアナは男爵の娘だ。爵位はあるが、領地はない。典型的な貧乏貴族の出だった。結婚したとしても、高い身分の相手は望めないだろう。家事をせずに済ますには、自分が稼ぐしかないというのは、道理だった。 「男性の礼服の経験がないのでは?」  ミンリの言葉に、サリアナは眦を微かにつり上げた。 「ムタフ家の公爵様の礼服を仕立てておりました。本日見本をお持ちしました」
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