第4章:母危篤

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 山から土捨て場まで往復すると、若い隊員たちも疲れきってしまうほどだった。然し帰りは軽乗用車を運転する様にすいすいと宙を飛んで帰って来る。  若さに適性と、技術を覚え様とする意欲と情熱さえあれば、若木が水を吸い取る様に、ものすごい進歩を遂げることができた。勿論仲間のなかにはケーブルでショベルのアームを壊したり、事故を起こしたりした者も居たが、大きな事故にはならなかった。  茂は正月は独り隊員宿舎で過ごした。母の居ない無人の自宅には帰ることも出来なかった。小学生の弟は新婚早々の姉夫婦が引き取り、郡上の山奥で暮らしていた。  年が明け、出発の春が間近になった。隊員たちはブラジルの医療を考えて、病気でも無いのに盲腸の摘出手術を受ける者が居て、茂も勧められたが決心はつかなかった。  運は天に任せてこそ面白い。そんな小手先の準備で運命を逃げられるものではない。その運命に立ち向かえるだけの心の準備と技術の訓練は十分に受けた。後は、何でも、来いの覚悟だけだ……茂はそう思った。  出発は三月と決まった。全国の訓練所から集められた凡そ七〇名の隊員がアルゼンチナ丸に乗船して渡伯する事になった。
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