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ナース・ステーションの前を通って二人はエレベーターで下に下り出口に向った。
「手術は明日に決まったし、坂口教授が執刀されるならもう安心だわ……」
時々麻里は名古屋弁で話し、受け口をそばめて笑う。そんな仕草が茂は堪らなく好きだ。笑うとくっきりとカラスの足跡が目元に浮ぶが、返って愛嬌に感じられ、九才年上の女
に抱く慕情はいや増すばかりである。人生経験も経済力も全てが、たち勝っている年上の女との交際は与えられるだけの一方的なものだった。こちらが拒否も要求も出来ない一方的な愛のお仕着せ。愛に餓えている若者はただ貪り食らうしか方法が無かった。大人の女が持つ魅力に腹を空かせた狼が投げられた餌をがつがつと食い散らすに似てあさましく互いに欲望は感じても愛などとは呼ぶ価値の無いものだったかもしれない。
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