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第2章:白井真理
入隊して四ヶ月程たった初夏、保健の授業が終了すると、白井技官は隊員の全員に明日の土曜日に自宅でパーティをするから参加しないかと話しかけた。
当時隊内は遠藤派と実力派の茂の両派に分かれ勢力争いを続けて居たので、麻里の招待にも遠藤派は辞退を表明した。
茂が麻里に好意を寄せ、麻里を始め教官達は成績抜群の茂を高く評価しており、その事情を敏感に察知した遠藤は麻里の好意を無視してその招待を拒絶したのである。
誰も進んでパーティに参加すると申し出ないので麻里は茂に自宅の地図と電話番号を渡し、耳元で「土曜の夜待っているわ」と囁いた。
土曜の夕方は皆外出して寮生は中嶋と茂の二人だけだった。茂は中嶋に一緒に麻里の家に行こうと誘ったが、中島は婉曲にその誘いを断わった。
「君一人で行ってこいよ、俺は街に出て映画でも見てくるよ」
誰も居なくなった部屋で茂は畳に寝転がって麻里の顔を思い返していた。《九才も年上の女、結婚していて三才になる男の子が居るという。そんな家庭にのこのこ出かけて行く自分の気持ちが判らなかった。然し、女は若ければ良いというものでもないし、第一、若い女と一緒にいても楽しくなかった。
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