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大人の女の強烈な魅力には逆らえなかった。洗練された言葉使い、清潔な服装、品のある装い、どれをとっても麻里は素晴らしかった。黒いスエードのハイヒールに白いまっすぐに伸びたかっこいい脚、少し受け口の赤い唇、頬にうっすらと浮ぶ雀斑、キラキラ輝く黒曜石のような黒い瞳……》麻里の情念の絡んだ視線を思い出すと茂は抗し切れなくなって外出の仕度を始めた。
麻里は茂が、今まで付合った女性の誰よりも情熱的でセクシーだった。麻里の渡してくれたメモに従って、バスに乗って瑞穂グランドの暗いバス停に下りた。
「川の傍の左の二階屋、其処が私の実家よ。待っているわ……」
妖しい笑みを浮かべて茂の瞳を除き込んだ麻里の目を茂は思い出す。暗い夜空から細い雨が降り出して、見知らぬ街で方向を失った茂の心を萎えさせた。
暗い道を必死で麻里の家を探す茂の前方に黒い人影が見えた。傘をさした麻里が暗い道の真中で茂を待っていたのである。
「此処よ茂さん、探した?」
闇の中から暖かい麻里の声が伸びてきて、茂の心に明りが燈った。
「待っていてくれたの?」
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