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誰も進んでパーティに参加すると申し出ないので麻里は茂に自宅の地図と電話番号を渡し、耳元で「土曜の夜待っているわ」と囁いた。
土曜の夕方は皆外出して寮生は中嶋と茂の二人だけだった。茂は中嶋に一緒に麻里の家に行こうと誘ったが、中島は婉曲にその誘いを断わった。
「君一人で行ってこいよ、俺は街に出て映画でも見てくるよ」
誰も居なくなった部屋で茂は畳に寝転がって麻里の顔を思い返していた。《九才も年上の女、結婚していて三才になる男の子が居るという。そんな家庭にのこのこ出かけて行く自分の気持ちが判らなかった。然し、女は若ければ良いというものでもないし、第一、若い女と一緒にいても楽しくなかった。
大人の女の強烈な魅力には逆らえなかった。洗練された言葉使い、清潔な服装、品のある装い、どれをとっても麻里は素晴らしかった。黒いスエードのハイヒールに白いまっすぐに伸びたかっこいい脚、少し受け口の赤い唇、頬にうっすらと浮ぶ雀斑、キラキラ輝く黒曜石のような黒い瞳……》麻里の情念の絡んだ視線を思い出すと茂は抗し切れなくなって外出の仕度を始めた。
麻里は茂が、今まで付合った女性の誰よりも情熱的でセクシーだった。麻里の渡してくれたメモに従って、バスに乗って瑞穂グランドの暗いバス停に下りた。
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