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じっと立っているだけで汗をかくような、そんな夏の夜。俺は小学生時代の思い出を振り返りながら三人の男を待っていた。虫の声ばかりが響くうす暗いバス停で待つのは特に苦じゃない。その先に懐かしい喜びがあると知っていれば、ちっとも苦しくはなかった。
ほどなくして、バス停に小さなバスが現れた。中から出てきたのは、大きな旅行鞄を持った一人の男。でっぷりとした腹と糸みたいに細い目を見れば、二十年間会っていなくてもしっかり名前を思い出せる。小学校時代の旧友、藤岡だ。
「ずいぶん変わったなぁ、吉村。お前だけこっちに残ってたせいで全然会えなかったもんなぁ」
名前を呼ばれ、俺は声を出すよりも先に手をあげた。
「あぁ、久しぶりだ。俺たちもずいぶんおじさんになったよな」
「下手すりゃ孫がいてもおかしくない年齢だしな」
「……ところで、藤岡以外の二人は? 四人で集まろうって話だったけど」
尋ねると、藤岡は肩から下げた旅行鞄を叩いた。
「しっかり連れてきてるから安心しろ。とりあえず宿に行こうぜ。吉村の家の宿、タダで借りていいんだよな?」
「……あぁ。この時期だと、暑すぎて客足も遠のくもんだ」
そんな風に会話をしながら、俺と藤岡は宿を目指した。と言って、そう距離は遠くない。ほんの少し歩いただけで着く。そうじゃなきゃ、旅行客を相手にした宿なんて経営してられない。
宿に着き、空き室に藤岡を案内してから準備していたものを取りに行く。あいつが正規の客なら豪勢な料理をふるまうところだが、両手に抱えて持っていたのは大量の缶ビールと酒のつまみ。旧友との再会を懐かしむのに最適なものはアルコールだと知っていた。
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