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『おぅい吉村、驚いてばっかじゃなくて乾杯しようぜ。あんまり騒ぎすぎると奥さんに怒られるんだ。明日も昼から仕事があるし、早いうちに始めちまおう』
やはり、二人は都合があわなかったのか。こっちに帰ってくるのが難しいとは聞いていたが、まさかこんな方法で同窓会を実現させるだなんて驚きだ。田舎から都会に出て技術を学んだ藤岡だからこそ思いついた手法だろう。
数十年のうちにずいぶんと成長した友人への驚きはいったん横に置いて、まずは久しぶりの再会を喜び合おう。
そう考えて缶ビールを取ると、まったくおなじタイミングで藤岡がビールを手にしたせいで笑ってしまった。
懐かしい旧友との同窓会は、早くも温まった雰囲気の中で始まりを告げた。
同窓会が始まって四時間。
もうそろそろ日も変わろうかというその時間に、金城がぽつりと言った。
『そういえば、二年生の頃に夜の学校探検したよな。覚えてるか?』
スピーカー越しでもびくっとした。あのときの話は、あまり思い出したくないものだった。
だが、ガキの頃のばかげた思い出は面白いくらいに膨らむもので、既に流れは夜の学校探検の思い出へと向いている。
「相良が言い出したんだっけか? 学校の怪談を確かめようって」
『有名だったじゃん、夜になると現れる四つ目の教室。一年、二年、三年の教室しか並んでないはずの西校舎の一階に、存在しないはずの教室があるって』
『あれは怖かったよなぁ。当直の教師に見つからないようにこっそり忍び込んで、みんなで真相を確かめようって……子供の頃だからこそ楽しめたバカ騒ぎだ。今じゃあ、真実がわかっちまったもんなぁ』
意味ありげな言葉を漏らした金城に視線が集中したが、藤岡の言葉がそれを分散させた。
「こういうの語らせるなら吉村が一番だろ。お前、記憶力いいしあの日のことしっかり覚えてんだろ? ちょうど夜だし真夏だし、怪談っぽく語ってみてくれよ」
『おお、それいいな。俺も聞きたい』
本音を言えば断りたかったが、水を差すのもなんだか嫌でしぶしぶ引き受けた。たぶん、アルコールが回ってたのがいけなかったんだと思う。忘れてしまうべきあの日の出来事を言葉にして思い出すなんて、普段の俺なら絶対に断っただろう。
だから、すべてはアルコールが悪い。俺のせいじゃないんだ。
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