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全て思い出した。久し振りに帰った故郷で、恥を偲んで下げた頭。回らぬ首を何とか動かし、起死回生を果たしたいと、本当はしたくもない無心をした。すげなく断られ続けて、最後の一人を探して、見つけたのは懐かしい裏山だった。
『子供が帽子を忘れたって言ってさ。探しに来たんだが見つからん。諦めたわ。』
『そうか。』
『どうした?久し振りに帰ってきてあちこち懐かしんでるんか?』
『いや、お前を探してた。……金を、貸してくれんか。』
『……いくらだ?』
『100万……いや、いくらでも良いんだ。必ず返すから。』
『……それはダメだ。そんな言い方、返さん奴の言い方だ。』
『待ってくれ。お前が最後なんだ。頼む?』
縋る腕を大きく振られた。小さな裏山と油断していた。思ったよりも高い崖になっていた山肌の下は、枯れた木立が雪に隠れて乱立していた。背中から腹を突き刺す枝にはベッタリと血液が付着しているのだろう。感覚の麻痺してしまった指先ではもうよく分からない。そもそも指が、体が、1ミリも動かせそうにない。
――声が、聞こえる。
助けに来てくれたんだろうか。様子が分からない。目を開けても白しか見えない。今は朝か昼か夜か、それすらも分からない。
――はは、雪が暖かい。
ふわふわした心地好さに再び目を閉じた。だんだんと声が明瞭になる。これは子供の声だ。懐かしい友人の……
「おい、こんな所で寝る奴があるか。」
目を開けると友人の顔があった。麦わら帽子を被って、肩には虫取網を担いでいた。
「はよ、行こうぜ。」
助け起こされて、慌てて友人達の後を追いかける。走りながら違和感を覚える。それが何なのか分からないまま、友人の笑い声に応えて笑えば、やがて気にならなくなる。
「待ってくれぇ」「はよぅはよぅ!」
静かな山に子供達の声だけが響き渡った。
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