山中にて

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山中にて

おーいおーいと呼ぶ声が聞こえる。さっきまで鳴いていた蝉の声は何処へいったのだろう。 夏の日射しは真っ白で何もかも覆い隠してしまう。ごろりと寝転んだ視線の先に現れる筈の空は光に遮られ、見えなかった。眩しさに目を閉じて、耳を澄ます。追いかけていた蝉の声はいつの間にか止んでいた。 ――どうして寝転んでるんだっけ? 確か友人たちと蝉を捕りに裏山に来たのだ。そこで転けた。 ――転けた? 覚えている浮遊感。絶望。真っ暗な夜空。 ――本当に、昼なのか?そもそも、夏休みなのか? 確かに暑い。いや、熱い。背中に、腹に熱さを覚える。 ――どうしてここにいるんだ? 振り切られた腕。振り返った顔。老けた、幼馴染み。 ――ああ……そうだ。
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