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「うぅん、美味しい。でも、こっちを頼んで正解だったわ。ありがとう」  いつもこの調子でひと口をねだり満足する梢だが、 シェアしたり自分の料理を分け与えたりする発想は持ち合わせていないようだ。 「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの…… まさしくジャイアニズムの申し子だよねぇ」  陰で「ジャイこず」または「ひと口女」と呼ばれていることは、 当然のごとく梢本人は知らなかった。  梢のひと口ねだりは食事だけに止まらなかった。 三年間付き合っている恋人がいるにも関わらず、 梢にうっかり彼氏を紹介しようものなら嵐が巻き起こるのだ。 梢のひと口ねだりの被害に遭った瞳は、結婚目前だった婚約者の浮気を知り、 泣く泣く別れを告げたのだった。  小百合は祖父母から成人式のお祝いに贈られた真珠のネックレスを、 梢に貸して一年近くも返却されず仕舞いでいるという。 よくよく話を聞くと貸したのは真珠のネックレスだけでなく、 ブランド物のバッグや靴までも返却さないままになっていたらしい。
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