神の物差し、ヒトの物差し

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 祠の前で手を合わせて、祠の屋根に乗っていた木の葉を取ってやる。普段からよく手入れされているのが分かるほど、それ以外は殆ど綺麗なままだった。毎朝司が掃除している以外にも、信心深い周囲の人々がこれをよく掃除していってくれるのだ。お饅頭の類も恐らくは彼らが置いていったものだろう。ここに祀られている神もまたそれを喜んでいるに違いない。家で美味そうに朝食を食べている姿を思い出して、司は小さく笑みをこぼした。  比喩で何でもなく、マノギというのは正真正銘の神様である。  地霊と呼ばれる、この地に根差した神様。麻野木というこの地名の元になった地域密着型の神様は、元々は人間だった。それが千年の時を経て信仰を集め、清條家の人間がその祠を管理している。その縁あってか現在彼は人の姿を取り司の家に居座っているわけだが――そこら辺の理由は彼女にもよくわからなかった。 「マノギ様って喋り方は立派におじいちゃんですよねー。そこら辺志津真さんより年寄りくさいと思うんだけど、どうなんでしょう」  人型のマノギの実家、或いは本体とも言うべき祠に向かって独り言ちるが、やはり返答は帰ってこない。 マノギが地霊ならば、志津真はあれで彼よりも年上。元は神としての格もさらに上の水神である。元々は人に近い中間管理職的な立場の神様だったのだが、ある事件がきっかけで神としての権限は大幅に制限されてしまった。大きな信仰の地盤があるこの地では、恐らく今はマノギの方が力が強いだろう。     
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