35人が本棚に入れています
本棚に追加
夕暮れの寂しげな時間が終わると、当たりの雰囲気も一気に寂しげな物へと変わる。この時間に客がいないとなると、後は八時半の閉店まで誰も来ることはないだろう。諸々の雑事を片付けても九時には上がれると踏んだ司は、冷蔵庫に入っている緑茶をグラスに開けた。
「マノギ様、無責任にあんなこと言っちゃってどうするんですかぁ」
「なに心配は要らぬよ。芦雪という大鴉があの辺りに住んでいてな、五百年ほど前に世話をしてやった。それに志津真の水鏡があれば、失せものなど探すのは容易であろうて」
「勝手に人の力をアテにするのはやめてくれるかい……? いや、確かに探すのはそう難しいことでもないんだがね」
テレビのリモコンを取ってチャンネルを天気予報に変えると、マノギからやめろと抗議が飛んだ。あれで真面目に見ていたらしいが、志津真はそんなことお構いなしに予想天気図に目を向ける。
「三日後に雨。このところ晴れが続いていたから、俺も少々疲れていたんだよ」
降水確率九十パーセントの予報を見つめた志津真はにっこり微笑み、口を尖らせるマノギにチャンネルを返してやる。雨が上がるはずの四日後――つまり土曜日が、嘉穂の探し物を探すその日に決定した。
最初のコメントを投稿しよう!