神の物差し、ヒトの物差し

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「君たちが俺に頼らずに起きてくれれば何も苦労はないんだけれどね。特にマノギは夢なんて見ないだろう。ほら片付かないから早く食べる」  茶碗に白米を盛って司の前に出してくれた志津真の他に、茶の間にはもう一人青年の姿がある。まるで塗りつぶしたかのように白い髪と、日焼けのひの字も知らないような白い肌。その中でぽっかり空いた黒い瞳をニヤリと歪ませて、マノギと呼ばれた青年は胡瓜の漬物に手を伸ばした。 「やれやれ、年寄りはうるさくてかなわぬな。司、醤油を取ってくれぬか」 「え、マノギ様漬物に醤油かけるの? 高血圧で倒れても知らないよ」  そんなことはないと分かっていながらも、司は茶化すようにそう言って醤油を手渡した。病気になることもなければこれ以上老けることもない、マノギという青年はそういう存在だ。 「齢千を過ぎた君にじじい扱いされるとはね……否定はしないが、いい気もしないよ。神格というのは年じゃないんだと嫌というほど思い知らされる」  テレビの占いコーナーをチェックしてラッキーカラーを確かめていた志津真は、そう言って麦茶の入っているボトルを傾けた。確かに見た目だけならば、志津真の方がマノギよりも少し年上に見える。しかしまた彼の姿も、司から見ればはじめて出会った時から一つも変わらない。恐らく彼女が老いてその生涯に幕を下ろすその時でさえ、この二人の外見は皺一本とて変わることはないだろう。     
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