神の物差し、ヒトの物差し

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 傾斜もそう急ではないし、飲み物を飲みながらでも登る余裕がある。そう伝えればマノギは顎に手を当て、「そうか」と呟いて足早に登山道を登り始めた。道の脇に植えられた花々が目を楽しませてくれるが、三人にとって景観など二の次だ。何はともあれ、頂上から芦雪を呼ばねばならない。その大鴉が呼びかけてくれるという保証はどこにもないにしろ、だ。 「麻野木を離れたからね、マノギが気を張っているのはそのせいかもしれない」 「そうなの?」 「俺は元々属する地域がないけれど、あの土地は彼の子供であり、家のようなものだ。彼を奉る立場の君が側にいるからまだいいが、いなかったらどうだろうね」  志津真はつらりとしてそう言うと、足は大丈夫かと手を差し伸べてくる。どうやら彼らにとって、山に登るというのはとんでもない修行か何かのような認識があるらしい。問題はないと司が告げると、彼は一歩下がって彼女の後ろについた。 「私って、いるのといないのでそんなに違うの?」 「違うとも。マノギにとって君は持ち運びできる祠みたいなものだ。地霊はそこに住んでいる人間が側にいるだけで力を得ることができるのさ。彼のように未だに篤く奉られている存在ならばなおのことね。君が清條家の人間であるということも、また大きいが」  言い換えれば携帯ハウスか。  そんな大それたものではないにしろ、自分がマノギにとって完全にストラップ感覚の玩具ではないということには安堵を覚える。生前の祖父の約束通り気付いた時には祠を掃除しているが、彼の後継として司が行っているのはそれくらいだ。     
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