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「いくら一限がないからっていつまでももたもたしてないで、忘れ物のないようにするんだ。もう筆箱忘れたとか教科書ないっていっても持って行ってあげないからね」
「わかってるってば。あのね志津真さん、私もう大学生なの。原付運転できるし、必要なものがあるなら買いに行けるから心配しないで」
そう言うと司は煮物と一緒に白米を掻きこみ味噌汁で流し込んだ。よく噛んで食べろと母親の様な注意が横から聞こえてくるが、これもこの六年でそれこそ死ぬほど聞いているセリフである。レタスとトマトのサラダとグレープフルーツを食べ終えた司は勢いよく手を合わせると、そのまま立ち上がった。
「ごちそうさまでしたっ!」
「はいお粗末様でした」
志津真がそう言うや否や、司は足早に茶の間の奥にある仏間に向かった。母屋のように広くはないが物もなく開けたそこには、小さな黒塗りの仏壇が一台、ぽつんと置かれている。中には二柱の位牌と写真立て。若い男女が隣り合って笑っているものだ。
「お父さん、お母さん、あとおじいちゃん。おはようございます。今日も一日頑張るので、あんまり心配しないでください」
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