神の物差し、ヒトの物差し

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 この小さな町で「清條家」と言えば、多くの老人が深く頷くだろう。「マノギ様の」と呼ばれることも少なくないし、若者からは「あのやたら大きな家」と形容されることも多々ある。家自体は古くからある庄屋の家系らしいが、それにしたって些か大げさである。引き取られたばかりの司もそこには驚いたし、既に鬼籍に入っている祖父が生きていた時も、大掛かりな祭りの際は町長や町議会議員よりも先に彼に一言貰うのが通例となっていた。  麻野木町。それがこの小さな町の名前だ。通っている大学は隣町だし、コンビニも界隈に一軒しかない。周りを見渡しても森と田んぼと畑しかないこの町で、とにかく清條家というのは妙な権力を持っていた。  ――それの正体が、恐らくコレだ。 「おはようございます、こっちのマノギ様」  道路脇に原付を止めて、やや深い林の中に足を踏み入れる。既に何度も人が通って出来た道を踏みしめていくと、そこには小さな祠が一つ。お酒とちょっとしたおつまみやお饅頭が置かれたそこは、「マノギ様」と呼ばれるこの地の神様を祀ったものだ。 「とりあえずこれが今日のお供えです。漬物に醤油かけるのはあんまりよくないと思います」     
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