神の物差し、ヒトの物差し

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 *  講義といっても、この日は二限と三限しかなかった。特にこれといって予定がない司は図書館でゼミの課題を終わらせた後、また原付にまたがってバイト先を目指すことになる。  彼女が働いているのはカフェ・アルボスという個人経営の喫茶店だ。元々高校生の時に伯母の友人に店を手伝ってくれと言われて、それからずっとそこで働いている。店長が不思議な人で、マノギや志津真についてもある程度の理解があった。 「おはようございま――あ、志津真さん」 「おや司。早いね、まだ三時だけど」 「思ったより時間余っちゃって。先になんか食べようかな」  黒のギャルソンエプロンを付けた志津真は、静かな店内でひとりグラスを磨いていた。どうやら今日は店長が留守であるらしい。  店長はいくつかの事業を展開している女性実業家で、この喫茶店経営も彼女の数ある職業のうちのひとつである。故に在店していない時も多いが、そういう時は決まって志津真かマノギのどちらか、或いは両方が店長代理として呼び出されていた。 「あれ、マノギ様は?」 「土地神に店番をさせるとは何事か、とか言ってどこかに行ってしまったよ。商店街でコロッケでも食べてるんじゃないかな?」 「またか……なんていうか、セコい神様だなぁ」 「そこが彼の人間らしさというか、人に信仰される理由なのかもしれないけどね――パンケーキでいいかい?」  それでいいと司が頷くと、早速志津真が料理に取り掛かる。家でも朝食を作る彼の手際はよく、自家製のジャムと生クリームを添えたパンケーキはあっという間に彼女の前に用意された。 「今日はあんまり入りも多くないし、忙しくはないかな。本当にただの店番だから、マノギがいてもいなくても大したことはないんだけれど……君がカウンターに入ったらちょっと呼び戻してくるよ」  一応、マノギが地霊だということを知っている人間は限られている。彼が生きた平安時代ならともかく、今は21世紀平成の世。妙な喋り方をしているだけでも厄介なのに、自称神様なんて痛々しいにもほどがある。志津真と違ってその辺の事情を理解しようとしているそぶりも見せないマノギは、ここでは麻野恭介、通称マノギさんと呼ばれていた。
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