文を詠む鳥

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文を詠む鳥

 そんな折、彼女の詩に再び要らぬ音が入ることになる。  ぴぃ…ぴぃ……  目をつぶって詩を吟じていたところに舞い込んで来たのは、小鳥のさえずりだ。遠くの松の木に止まるホトトギスやウグイスのさえずりなら何度も耳にしているが、その声はやけに近い。ひょっとしたら目の前にいるのではないかと思うような距離だ。  ゆっくりと男の顔を浮かべていた瞼をそっと開くと、障子窓のさんに一羽の文鳥が止まっていた。文鳥はしきりに首を動かしながら文彩の顔をあらゆる角度から見つめ、羽をぱたつかせては、ぴぃぴぃとさえずる。何とも愛らしいその姿に、文彩は手を刺し延ばし、しなやかな指先に文鳥を誘おうとする。 ―――― 川に身を投げ 生れ変わるるは 岸の一輪に 舞う鳥よ ――――   文彩は耳を疑った。自分の口が動いていないというのに、どこからか都都逸が聞こえてきたのだ。だが、人が発した声にしては何ともぎこちなく、抑揚がない。昔に、見世物小屋で見た”物言い鳥”という喋る鳥の話し声にそっくりだ。まさかとは思うが、目の前の文鳥が歌ったのだろうか。 「詠み手は主か」  そう尋ねると、文鳥はちょうどオウム返しのごとく、先程の都都逸をもう一度詠みあげる。ここまで来れば、この文鳥が都都逸を詠んだとして間違いはない。文彩は歓喜し、晴れやかな顔で、これは面白いと口の前に手を当てて驚嘆する。きっと誰かがこの鳥に文を教えたのだろう。そう考えた文彩は、あることを思いつき、障子窓のさんに止まる文鳥に向かって、三味線を抱いていつものように詩を吟じはじめた。 ―――― 花と咲くよりは 主に喰われて 気ままに空を 飛びたしか ――――  それを聞くと、文鳥は何かに納得したかのように首を縦に振り、窓の外の空へと飛んで行った。
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