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「うーん、自己分析は正しいと思うよ。佐伯は傍から見たら危なっかしく見えるぐらい、手際も悪いしコミュニケーション能力も低い。でも真面目で努力タイプだから、時間を掛ければ仕事だってきちんとできる。その場の対応力が低いだけで人を評価するわけにはいかない。まぁ誤解はされやすいみたいだけど」
堂本は社内でも仕事ができると評判の男で、出世コースに乗ったエリートタイプだ。服装や言動も派手で、颯也が接したことのない人種だった。
年齢は四十前後で周りにも気配りのできる、完璧な人だ。お節介なところがあるので、こうして家にまでやって来てくれたのだろう。
遠慮のない言葉の数々は爽快で、肩の力が抜けた。だが、信じて心を許すようなことはないだろう、と猛臣のことで学んでいたのだ。
「俺、会社辞めます」
「え? どうして」
「堂本さんに迷惑を掛けますから。仕事なんていくらでも探せるし」
「ちょっと待ってよ。そんなつもりで会いに来たわけじゃない。むしろ逆っていうか、佐伯の話を聞いてもっと近づけると……」
颯也の決断に、堂本は驚愕したのか勢いよく立ちあがった。堂本に過去のことを知られたから辞めようと衝動的に決めたわけではない。
勤める前から自分の中で決めていたのだ。菊池のことを誰かに知られたら、きっぱりと辞めようと。
恨みというのは怖い。真実を捻じ曲げ周囲に多大な影響を与えると知っているので、固執しないほうがいいと思ったのだ。
「こういうの、嫌なんです」
「佐伯?」
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