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ふたりだけで一緒に過ごしたい。恋人になってまだ日が浅く、照れを隠し切れなかった颯也はわざわざ言葉にしなかったけど、猛臣には伝わったようだ。
「うん。じゃあ颯也が欲しがってるものを、あげる」
「……っ」
横から腕が伸びてきて肩に手を置かれると、ゆっくりとソファの上に押し倒された。鼓動がはやくなり、頬に熱が集まって急速に体温があがる。
猛臣と恋人になってから、数度体を求められたことがあった。だけど颯也は断り続けてきたのだ。
好きな人と結ばれたいという気持ちは人一倍ある。行為が嫌なわけでもなかった。
中途半端なままで抱かれても心から喜べないだろうなと思ったのだ。職を見つけて、これまでの情けない自分に別れを告げて心機一転頑張りたかった。
「あっ、ちょっと待って」
「どうした?」
「ずっとお礼を言いたいと思ってた。猛臣に会ってから、俺の人生は変わった。今でも夢じゃないかと思うぐらい幸せで」
一度颯也は言葉を切り、深呼吸した。感謝の気持ちを込めながら、ぎこちない笑顔を浮かべる。
「ほんとうにありがとう」
頭の中を走馬灯のように、これまでの人生の情景が駆け巡り涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
決して幸せとは言えなかった颯也が今日まで生きてきたのは、猛臣に会う為だったと本気で信じていた。そして、明日からは更に楽しい日々が待っている。
「目閉じて」
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