人間界

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「今日ね、面接の結果連絡があったんだ。合格だって」 「そうなんだ。おめでとう颯也」 「ありがとう。猛臣」 恋人の白石猛臣には機嫌がいいことをすっかり悟られていたようだ。別段驚く様子はなく、穏やかに微笑みながらお祝いの言葉を告げた。 ほんとうは結果を聞いて一番に連絡したかったけど、帰って来るまで黙っておいたのだ。佐伯颯也はようやく心からの笑みを浮かべる。 「俺からも、ひとつ言っていい」 「なに?」 「プレゼントした鉢植え、蕾が咲いていたよ。まだすごく小さいけど」 「えっ、ほんとうに? よかった。俺って忘れっぽいから、絶対枯らすと思ったんだ。世話頼んで正解だったな」 慌ててベランダに置いてある小ぶりな鉢植えを、部屋の中からそっと覗き込む。既に外は薄暗かったが充分に蕾を認識できる距離で、蔦の先端に膨らみがあるのを見た。 種は猛臣からプレゼントされたもので、どんな花が咲くかは楽しみにして欲しいと言われ、明かされていない。颯也は植物に疎いので、葉だけではどんな花がつくのか想像もつかなかった。 「就職のお祝いしようか」 「べ、別にわざわざいいよ。明日から忙しくて、ゆっくりできるのは今夜だけだから……その」     
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