117

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「で、なんて?」 「いつ結婚できますか、って聞いたの。あ、その友達今年で36なのね。焦ってたみたいで」 「ちゃんと答えてくれたわけ?」 「ピ、ピ、ピ、ポーン、ってあの時報の音のあとにね、今の時間とは全然関係ない時間を言ったんだって。再来年の六月なんだけど。すごくない?」 「バグとかじゃなくて?」  言いながら、本当にそういうことはあり得るのだろうかと考える。 12分で電話回線が切断されないというのがバグならば、その後の自動音声にバグがあっても不思議ではないのかもしれない。 ただ、その場合は「次のアナウンスが始まるまでのあいだに話しかけたから」ではなく、単に「そのタイミングで再来年の六月のことを言ってしまうバグのようなもの」がたまたまあったから、ということになるのだろう。 話しかけようがかけまいが、変な時刻を知らせてしまう音声がそこに混入していたというわけだ。 「信じてないなあ。ま、私も最初はそうだったんだけどさ」  Aの口ぶりに驚いた。 「最初はって、もしかして?」 「うん、試したよ。美容室の待ち時間ですごく暇だったから、なんか気になって掛けちゃった」 「で、本当に時報さんが出たわけ?」 「ラッキーなのかなんなのか、出たんだけどさ。ちょうど順番で呼ばれちゃって、返事してたら何にも話しかけられなくって」 「で、そのあとは?」 「ちゃんと時間言ってたよ。『ピ、ピ、ピ、ポーンーー4月9日、2時4分ちょうどをお知らせします』って」 「何月とかまで言うんだ?」  確か、本当の時報は日付を言わないはずだ。 まさか、わざと誰かが仕込んだものなのだろうか。 「うん、友達のときみたいに西暦までは言わなかったけど。今年ってことかな?」 「今年の4月9日って、来月じゃん」 「なんの日付だろう。もしかしてスピード結婚とか?」  これって電話会社が流した都合のいいデマなんじゃないの、と私は思った。 そうすればみんな117に電話をするはずだ。 実際、Aが『天気予報より時報の方が掛かってくる数が多い』と言っていたし。
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