第八話

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セシリーがギルバートと暮らす家は、小高い丘の上にあった。研究所から歩ける距離にある、カントリー調の、可愛らしい小さな家。帝国との戦いが終わった後で、エリヤスが建ててくれたものだ。 来てすぐの頃は、戦いの最中ということで、エリヤスの陣地で過ごしていた。ギルバートは戦場に立っていたが、セシリーは、万が一にでもレイモンドに見つかり、連れ戻される事がないようにと、二人に用意されたテントに引っ込んでいた。 そうは言っても、何かしていないと落ち着かないと、怪我人の為の回復薬を作ったり、怪我の手当てをしたりはしていたが。帝国の人間に手当てされるのを嫌がる者もいたものの、セシリーの一生懸命さからか、終わる頃には受け入れられていた。 それももう2年前のこと。すでに、アルストニア攻略戦からそれだけの月日が流れているのだ。 戦いの終結後、エリヤスは二人をお抱えの魔法薬師と魔術師にしたうえ、密かに結婚式を自ら執り行い、二人を祝福した。 喜んで迎え入れてくれたエリヤスに、セシリーは感謝してもしきれない。ギルバートもきっとそうだろうが、口にはしていないようである。 この2年間で、セシリーは一度だけ家族に手紙を書いた。公に送る事は出来ないため、飛んでいたカラスと交渉して届けてもらったのだ。 ギルと一緒にいるから心配しないで、というたった一言の手紙。およそ心配しかしないような手紙だが、返ってきたのは、好きにしなさい、というものだった。
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