第八話

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サクサクと足音を立てながら、セシリーは丘を登る。緩やかな坂道は、ゆっくり歩けば疲れない。転移魔法を使うより、やはり歩く事が好きなセシリーだ。 丘を登りきると、家が見えてくる。木の柵に囲まれた前庭は、セシリーの薬草畑になっていた。いくつかの薬草を摘み取ってからそこを過ぎ、淡い翠色の扉を開けると玄関。二階へ続く階段の奥に、居間へと通じる扉がある。 「あら。おかえりなさい、ギル。今日は早いのね」 扉を開けてすぐ、ソファに座っていたギルバートに気がつき、そう声をかけた。 エリヤス付きになった際に与えられた、紺色のローブはソファの背にかけられ、今は袖のゆったりとしたブラウス、細身のグレーのパンツ姿。 足を組んで座った様子は優雅で、やはり皇子様なのだな、とセシリーはいつも思う。 ちなみに、セシリーのエプロンドレスも、エリヤスに与えられた物で、色が同じなのはエリヤスが決めた。二人にとってこれが仕事着である。 何やら資料を読んでいたギルバートは顔をあげ、微笑んでセシリーを迎え入れる。 「ええ。セシリーもおかえりなさい。今日は思いの外短時間で終わりまして」 「そうなの。ちょっと待ってね。お茶をいれるから」 セシリーはそう言いながら、続きになっている台所へ向かった。もらったお菓子と薬草を置き、お茶の支度に取りかかる。
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