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「交渉はどうだった?」
手を動かしながら、カウンター越しにセシリーは問いかけた。ギルバートは持っていた資料を机に置くと、頷いて口を開く。
「そうですね。あとひと押しでしょうか。エリヤス殿下も頑張ってくれていますし。一任されているのはダレス王太子殿下ですが」
ギルバートは今、エリヤス付きの魔術師兼交渉役として、帝国との講話に向けて動いている。帝国皇子だから丁度いい、と言われ始め戸惑ったものの、エリヤス付きの魔術師への命令だ、と言われれば断る事も出来なかった。
「王太子殿下が講和に前向きになってくれたのが、先ずは大きかったわよね。帝国にも悪い条件は提示して無いでしょうし」
セシリーの言葉に、ギルバートは頷く事で返事をする。ダレスが講話を考え始めたのは、これ以上の戦いは双方共に無益だと感じたからだ。
帝国としても、アルストニアを破壊し尽くしたいわけではないだろう、と考えていたし、アルストニアにとっても、帝国はようやく驚異になりつつあった。
今の内に手を結ぶのが得策だろう、と思ったのだ。
「ええ。休戦協定は6年ですから、残りはあと4年。その間に、何としても講和を成立させなくては」
じっくりと時間をかけ、ようやく皇帝が、条件を聞いてくるまでになった。これはいい傾向である。
真面目に頷くギルバートに、セシリーは自然と微笑みを浮かべていた。
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