第八話

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セシリーの言い種に、ギルバートは再び苦笑を浮かべる。 2年前までのギルバートに、生き生きしている、などという言葉は似合わなかった。それこそ、笑って本心を隠す、ダレスの嫌いな人種だったことだろう。 しかし、エリヤス付きとなって関わっていく内に、その考えを改めたようだ。それはギルバートも変わったからよ、といつかセシリーが言った。 今回の交渉役任命は、ギルバートを信用しているのが半分、忠誠を示せというのが半分、といったところか。 「……そういえば、そのダレス様からセシリーに伝言なのですが」 「あら。何かしら?」 思い出したように言ったギルバートに、セシリーは首を傾げる。思い当たる節があるはずがない。 何か失敗したかしら、と呟いたセシリーを安心させるように優しく髪に触れ、ギルバートは口を開く。 「王宮魔法薬師になる気はないか、と。エリヤス様付きのままでいいそうですが、時々王宮の方にも力を貸せ、と」 「それって、王宮の方が副業ということ?それでいいの?」 「構わないそうですよ」 「それっていいのかしら」 「ゆっくり考えてください。でも、王宮魔法薬師になれば、珍しい材料をたくさん見られますね」 微笑んで言ったギルバートに、それいいわね、と小さく笑って、肩に頭を持たせかけて目を閉じる。 ギルバートはセシリーの肩を抱き、その左手に自分の左手を重ねてキュッと握った。その手の甲には、同じ紋様が刻まれている。 アルストニア王国の、夫婦の証である魔法印。それぞれで紋様は違い、二人のはリーレインをモチーフにしている。
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